2025年9月下旬、北海道積丹町の穏やかな町並みは、突如として不安と緊張に包まれました。体重284kgという巨大ヒグマが、町議・海田一時氏の自宅近くの箱罠にかかり、駆除作業が急きょ始まったのです。普段は静かで落ち着いた漁師町が、わずか数時間で命の危険を伴う現場へと変貌しました。
駆除に出動した地元猟友会のメンバーは、ハンターとしての経験と責任感から、まず町議に「離れてください」と声をかけました。クマは突発的に攻撃する危険があり、近くに人間がいると最悪の事故につながるからです。しかし、町議の反応は予想外でした。「こんなに人数が必要なのか。金もらえるからだろ。辞めさせてやる」と発言。現場は一瞬で張り詰め、猟友会のメンバーは思わず息を呑みました。
この発言に猟友会は激しい違和感と危険感を抱き、翌日以降、町からの出動要請を一切拒否する事態に。以来1か月以上、クマの出没情報は途絶えず、町民は「次は自分の家の前に来るのでは」と日々不安にさいなまれています。町全体に漂う緊張感は、遠くから見ても切迫した空気が伝わるほどです。
町議の正体は?匿名報道の裏側
この騒動で報道された町議は匿名扱いでした。しかし、積丹町議会はわずか9名しかおらず、事件の条件―副議長であること、自宅裏にクマが出没したこと、農業従事者であること―を照合すると、該当するのは海田一時氏しかいません。
さらに、SNSでは「海田一時の娘」を名乗るアカウントが謝罪投稿をしており、海田氏本人である可能性が高いとされています。投稿では「父の行動について謝罪します」と記されており、町民やネット上の関心を集めました。ただし、海田氏本人は取材に対し「『辞めさせてやる』とは言っていない。一町議がそんな力を持っているわけがない」と否定。公式には確定情報ではなく、真相はまだ完全には明らかになっていません。
こうした状況は、事件が単なるクマ駆除のトラブルに留まらず、町議個人の発言やネット上の憶測が複雑に絡み合う、人間ドラマとしての側面も持っていることを示しています。
猟友会が出動を拒否した理由
この騒動で最も見逃せないのは、猟友会の駆除作業がいかに危険で命がけであるかという点です。ヒグマの駆除はほんの一瞬の判断ミスで重大事故につながる作業であり、経験豊富なハンターでも緊張を強いられる現場です。ボランティア的に参加している猟友会メンバーにとって、町議の「辞めさせてやる」という発言は、命を懸けた作業への侮辱であり、脅迫とも受け取れるものでした。
猟友会は慎重な判断の末、町に出動拒否を正式に通告。この判断は、町民の安全を守るための最終手段でしたが、同時に緊急時でも対応が不確実になるリスクを生み出しました。町民の間には、「警察のピストルでは到底対応できない」という声が広がり、町全体の不安は日に日に増しています。猟友会の勇敢な行動が、逆に町民の心配を増幅させる皮肉な状況となってしまったのです。
海田一時氏のコメントと経歴
HTBの取材に対し、海田氏は「『辞めさせてやる』とは言っていない。一町議がそんな力を持っているわけがない」と強く否定しています。しかし、現場の関係者によると、少なくともそのように受け止められる発言があったことは否定できません。この食い違いが、騒動の根深さを物語っています。
海田一時氏は1951年生まれ、74歳の積丹町出身。農家として地域の畜産業や酪農に長年携わる傍ら、町議会副議長として地域振興や観光促進、クマ被害対策などに尽力してきました。SNSを活用せず、町民と直接対話するスタイルを重視しており、地域社会に深く根付いた存在です。しかし今回の発言によって、町議としての立場と人間関係が大きく揺らぐ結果となりました。
町民の不安と情報共有の課題
今回の騒動で浮き彫りになったのは、町による情報共有の遅れです。猟友会の出動拒否が町民や議会に伝えられず、補正予算が可決されても状況説明は一切なし。町民は「いつ自宅近くにクマが現れるかわからない」と不安に震えています。
町は「事実関係の把握に時間がかかり、報告すべきか判断に迷った」と説明していますが、現場は一歩間違えば命に関わる危険がある状態。町民は安心できず、緊張感は依然として町全体に漂っています。この状況は、行政の情報伝達の重要性と、地域住民の命に直結する安全管理の難しさを強く示しています。
事件の核心と今後の行方
今回の騒動で見えてきたのは、単なるクマ駆除の問題ではなく、人間関係、責任感、情報共有の重要性です。町議と猟友会のトラブルは、町民の安全意識と不安に直結し、地域社会に大きな影響を与えています。
- 猟友会と町議のトラブルの発端は、町議の発言が猟友会に脅迫と受け止められたこと。
- 出動拒否により、町民は不安を抱えたまま。
- 報道上は匿名扱いでも、条件から海田一時氏である可能性が高い。
- 公式には本人否定もあり、事態は完全に解決していない。
町議と猟友会、そして町民の間に生まれた微妙な緊張は、今後どのように収束するのでしょうか。北海道積丹町の“クマ騒動”は、単なる野生動物駆除の話を超え、地域社会における人間ドラマとしても注目される事件です。町民の生活と安全、そして人間関係の複雑さが交錯するこの騒動の結末は、まだ見えていません。
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